約 1,207,353 件
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/795.html
第五章 再会 レジーナ「うわあ・・・すごい!!」 六花「ありすの計らいでパーティー会場に来る事が出来たレジーナ。その余りにも珍しい光景に驚いていました。」 レジーナ(キョロキョロ キョロキョロ) 六花「来たはいいものの、こんなに沢山の人の中からあの女の子をどう探せばいいのか、そもそもここに参加しているのだろうか・・・不安になるレジーナは隅のほうで立ち尽くしていました。」 ???「あら?あなた、もしかして昼間奏の所であった・・・」 レジーナ「えっと・・・あなたは誰?」 ???「あ!ごめんなさい。この姿じゃわからないわよね。セイレーンって言ったら分かるかしら?」 レジーナ「・・・・・・ええ!?ハミィの友達の黒猫の!?」 エレン「ええ。私は人の姿にもなれるの。後、この姿ではエレンって呼んでね。」 六花「なんとレジーナに声をかけて来たのは人間の姿になったセイレーンでした。」 レジーナ「エレンもパーティーに来ていたのね」 エレン「ええ。奏達と一緒に。二人になら今頃何処かでイチャついてると思うわ・・・」 レジーナ「はは・・・(苦笑)ハミィは一緒じゃないのね」 エレン「あの子は人になれないからね。お留守番よ。あなたは一人で来たの?」 レジーナ「うん。色々あってね。」 エレン「よかったじゃない!来る事が出来て。」 レジーナ「全然!!来たはいいけど、あの女の子は見つからないし、そもそもこんな所初めてだから緊張しちゃって・・・」 エレン「分かるわ・・・ 見たこともない人だらけで戸惑っちゃうわよね。」 レジーナ「エレンは猫だから尚更びっくりよね・・・」 エレン「それもあるわね。」 六花「二人が話していると、誰かがやって来ます。」 ???「あ!エレンだ。おーいエレーン!!」 ???「もう!そんな風にしなくても分かるでしょ・・・全くもうラブったら」 ラブ「ゴメンゴメン(苦笑)嬉しくてつい」 エレン「あら、ラブにせつなじゃない。あなた達も来ていたのね。」 六花「レジーナ達の前に現れたのはクローバーの二人でした。」 ラブ「うん。今年もせつなと幸せゲットだよ♪♪」 せつな「もう、ラブったら(呆れ)ところでその子は?」 エレン「紹介するわね。友達のレジーナよ。こちらは昼間のショーで見たと思うけどクローバーの」 ラブ「桃園のラブです♪♪よろしくねレジーナ!!ラブってよんでね♪」 せつな「東せつなよ、よろしくねレジーナ。」 レジーナ「よろしく・・・二人って仲がいいのね。奏達みたいに。」 ラブ「響ちゃん達には敵わないよ♪」 エレン「あら、そんな事はないんじゃない?ここで知り合ってから一年もしない内に結ばれるなんて中々だと思うけど(ニヤニヤ)」 せつな「も、もう・・・エレンったらからかわないでよ><」 エレン「ほんとの事でしょ♪」 レジーナ「二人はここで出会ったの?」 ラブ「そうだよ♪このパーティーはね、運命の人(彼女)を探す場所として有名なんだよ♪」 せつな「まあ、誰かさんみたいに そういうのに関係なく来る人も結構いるんだけれどね(笑)」 エレン「ちょっと!誰のことよ!?言っとくけど私は何処かのバカップルの付き添いで来てるだけなんだからね」 せつな「別に 誰もあなたの事とは言ってないけど(笑)」 ラブ「レジーナも運命の人を探しに来たの?」 レジーナ「まあ、そんな感じかな・・・」 ラブ「大丈夫!きっとレジーナも幸せゲットできるよ♪♪」 せつな「せいいっぱい頑張ればあなたの望みはきっと叶うわ!」 レジーナ「えっと・・・ありがとう」 ラブ「じゃあ、私達そろそろ行くね。」 せつな「さようなら」 エレン「私も響達が心配だから行くわ。じゃあ、レジーナも頑張って。」 レジーナ「うん、二人によろしくね」 六花「そして、レジーナはまた一人になってしまいました。」 レジーナ「さて、どうしようかな。」 六花「エレン達と話して少し落ち着いたレジーナ。彼女は頑張って一歩踏み出してみる事にしました。」 レジーナ「ここでじっとしてても何も始まらないわよね。とりあえず頑張ってあの子を探してみ・・・・・あれは!!」 マーモ「ふう・・・疲れたわ」 れいな「どんなものかと思っていたけど中々のものですわ」 リーヴァ「でも、わたし好みの子はまだ見つからないわね~♪」 マーモ「あんたみたいのを好きになりたいのなんて相当の物好きじゃなきゃいないわよ(笑)」 リーヴァ「失礼ね!・・・あら?」 レジーナ「ギクッ」 リーヴァ「そこに見覚えのある小娘がいたような・・・」 マーモ「見間違いじゃないの?」 れいな「そうですわ。あんな愚かなお猿さんがここにいる訳がありませんことよWWW」 リーヴァ「そりゃあそうね(笑)」 六花「嬢様達はそう言いながら去っていきました。見つからなかったものの、レジーナはまた緊張が戻ってしまいその場にうずくまってしまいました。」 レジーナ「・・・やっぱりわたしには無理だったのかな・・・」 六花「すっかり落ち込んでしまったレジーナ。そんな彼女を心配して 声をかけるものがいました」 ???「大丈夫ですか?」 レジーナ「ちょっと疲れちゃっただけなんで・・・あなたは!」 六花「レジーナに声をかけたのは一体だれなのでしょう・・・(・・・)」 ・・・(触らぬ神に祟りなし) 第五章 再会・完 第六章 幸せな時間の終わりへ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/43.html
ラブ「せつな~、お菓子たーべよっ♪」 せつな「夜に食べたら太るってラブが教えてくれたじゃない。」 ラブ「う・・・ぅ。」 せつな「でもラブが食べさせてくれるなら私・・・///」 ラブ「せつな・・・///」
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/53.html
圭太郎「せつなちゃんはデートとかした事あるのかい?」 せつな「でぇと?」 あゆみ「好きな人と一緒に映画館や遊園地、公園や海へ行ったりね。」 せつな「あっ♪あります。昨日もおとついもその前の日も。」 あゆみ「えぇ~っ!?いつの間にそんな、、、」 啓太郎「じゃ、じゃ、じゃ、じゃ、じゃあその何だ!?キ、、、キ・・・」 あゆみ「お父さんっ!!!」 ポカッ せつな「うふふ。キスですよね?それは教えてもらいました♪ 毎日してます。」 父母「な、、、、、、、、、、(汗」 ラブ「たっだいまぁ~!ふえぇぇぇ~、あつぃ汗止まんないぃ~」 せつな「あ♪お帰りラブ。今日もでぇとするの???」 啓太郎「ラブが相手なのかっ!?」 あゆみ「ラブが恋人なの~!?」 ラブ「何でそれをっ!!!!!!!!」 せつな「言っちゃダメだったの?」 ラブ「出来れば内密に。。。せつなぁ~(涙目」
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/736.html
わたしはラブちゃんが好き。 そう自覚したのは、何気ない日常の出来事だった。 ダンス練習の後、いつものようにカオルちゃんのドーナツカフェに寄って帰ろうということになった。 カオルちゃんからドーナツを受け取り、ラブちゃんとせつなちゃんがいるテーブルに置こうとした。 その時、胸の奥がチクって痛んだ。 笑いあっているラブちゃんとせつなちゃんを見ておきた胸の痛み。 最初は、ダンス練習の後だからと思っていた。 ダンスは簡単そうに見えて、とても難しくて体力も使う。 これまでほとんど運動をしていなかったわたしは、最初のうちはみんなの動きについていくので精一杯。 でもだんだんと、ダンスのせいじゃないって分かった。 ラブちゃんとせつなちゃんを見ておきた胸の奥の痛みは、 自分でも不思議なことに、ラブちゃんと美希ちゃんが一緒にいても、 或いはせつなちゃんと美希ちゃんが一緒にいても、痛みはおきない。 ラブちゃんとせつなちゃんが一緒にいるときだけおきる現象。 だけど、その痛みは、小さいけれど確実に存在して、時が経つごとに大きくなっていく。 今では、わたしのそばにせつなちゃん達がいなくても、胸が痛むようになった。 ラブちゃんを見て、胸の奥に広がる温かいもの。 ああ、これが人を愛おしく思う気持ちなんだって思った。 それに、せつなちゃんが嫌いなわけではない。 むしろ、慣れない環境で精一杯頑張っているせつなちゃんを見て、わたしの出来ることならなんでもしたいと思う。 ダンスをしようか迷っていたせつなちゃんに練習着を渡した時の気持ちは、今でも変わっていない筈なのに。 今はダンス大会を1か月後に控えた、大事な時期。 この大会は大きな大会で、優勝すればラブちゃんの夢に大きく近づく。 優勝しなくても、何カ月も前からみんなが目標にしていた、大切な大会。 でも、最近の練習は全員の動きがかみ合わず、不本意なものに終わっていた。 寒いから動きが鈍いのかなとかみんなは言っていたけど、多分、わたしが原因。 ダンスをしているとき、横にいるラブちゃんとその隣のせつなちゃんが気になって仕方ない。 ラブちゃんの夢の足手まといになりたくない。 そう思うけど、今のわたしは足を引っ張ることしかしてない。 思い悩んだわたしは、バレンタインにチョコを渡そうと決めた。 想いを口にすることはできないけれど、せめてバレンタインのチョコに想いを込めたい。 ラブちゃんが気づかなくてもいいと思うのは自己満足だとは思うけど、そうしたらダンスに専念できるかもって思った。 毎年、お父さんとかにはバレンタインにチョコを渡していたけれど、手作りなのは今年が初めて。 美希ちゃんとせつなちゃんには同じ生チョコを、ラブちゃんには違うものを。 数日前から、デパートへ行って道具や材料を揃えたり、料理の本を買ったりした。 わたしの気合の入れように、お母さんには、好きな男の子にあげるのと聞かれたけど、わたしは友チョコだって答えた。 確かに、友チョコ。だけど、違う。 ラブちゃんへの想いを自覚する前なら、みんなに感謝の気持ちを込めて作っただろうけど、 今ではもう、カムフラージュでしかない。ラブちゃんにチョコを渡す為の。 バレンタインデーの今日はダンス練習の日だから、みんなに会えるし、チョコを渡せる。 ラッピングは全部同じで、中身はラブちゃんのだけ違っている。 ラブちゃんのチョコがどれか分からなくならないように、見えないところに印をしたりして。 でも、チョコを渡す直前になって、ラブちゃんとせつなちゃんが一緒に箱を開けたらどうしようと思った。 ラブちゃんとせつなちゃんは同じ家に住んでいるから、一緒に開ける可能性がある。 ラブちゃんに一人の時に開けてねと言うことはできるけど、どうして?って聞かれたら、どう答えよう? そんなことを考えていてダンス練習が終わっても、結局ラブちゃんにもみんなにも渡せなかった。 帰宅し夕御飯の後、自分の部屋に戻っていたけど、焦燥感にも似た思いに駆られ、外へ出た。 やっぱりラブちゃんにチョコを渡したい、その思いで。 ラブちゃんの家はわたしの家とそんなに離れていないから、走ればそう時間がかからない。 部屋にいた時のままの服装で外に出たけど、走ったせいか、寒さは全然感じなかった。 ラブちゃんの部屋もせつなちゃんの部屋も灯りが点いている。 リンクルンで呼び出せば、ラブちゃんは外に出てきてくれるだろうけど、 慌てて家を出てきたから、ラブちゃんのチョコしか持ってきていない。 せつなちゃんのチョコがないことの説明がつかない。 それにチョコを渡すなら、今日はいつでもチャンスがあった。 わたしがダンス練習の集合場所の公園に行った時、先にいたのはラブちゃんとせつなちゃんの二人だったし、 練習の合間の休憩のときでも、帰りに寄ったドーナツカフェにいるときでも、いくらでも。 もう、渡せるわけないよね。 そう思い帰ろうと後ろを向いたわたしの目の前を、白いものが落ちてくる。 空を見上げると、暗闇のなかからタンポポの綿帽子のような雪が降りてくる。 雪はわたしの顔に落ちて溶け、幾筋もの流れとなって、頬を伝い下へと落ちてゆく。 その流れの中に、一筋の熱い雫。 わたしは声もなく涙を流しながら、ただ、はらはらと舞い降りる雪を眺めていた。 時間はどれくらい過ぎていたのだろう。 気がつけば、ラブちゃんの部屋もせつなちゃんの部屋も灯りが消えていた。 雪は絶え間なく降り続け、世界を、全てを、白く染めていく。 だけど、暖かくなれば儚く溶けてしまう雪。 わたしのこの思いも雪に埋もれ、消えてしまえばいいと、そう思った。 了
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/727.html
『冬のあったか祭り2014~閉幕~』/一六◆6/pMjwqUTk ラブ「はぁ~、お祭りもそろそろおしまいかぁ。楽しかったねっ、せつな!」 せつな「そうね。ぬくもりってどういうものなのか、最初はよくわからなかったけど、随分いろんなぬくもりに出会った気がするわ。」 美希「イベントが始まる前に、みんなでいろいろ言い合ったけど、結構いい線行ってたんじゃない?アタシたち。」 祈里「そうかな・・・。でも、あの時は考えもしなかったような、たくさんのぬくもりに出会えたよ?」 美希「そう言われれば・・・そうね。」 ラブ「うんうん。お鍋に~、ラーメンに~、肉まんに~、あと、ホットココアもいいよね~。」 せつな「ちょっと、ラブ!食べ物ばっかりじゃない。」 祈里「しかも、どれも登場してないんじゃ・・・」 ラブ「あれぇ?」 美希「・・・まぁどっちにしても、最初はアタシたちがぬくもりを持ち寄るつもりだったのが・・・」 祈里「いろんなぬくもりに、わたしたちが温めてもらったような・・・。」 せつな「私たち、もっとしっかりしなくちゃね。」 謎の声「「「「「「いいんじゃない?それでも。」」」」」」 ラ美祈せ「「「「えっ!?」」」」 ミラクルみんな来た♪少女たち「心や体があったかくなると、他の人もあたためてあげようって思うじゃない?」 永遠の友達♪な少女たち「そうやって誰かのために頑張ってる姿だって、見ている人にぬくもりをくれるんだって。」 未来の友達☆な少女たち「そうしてどんどん、いろ~んな形のぬくもりの輪が、広がっていくんだよねっ!」 ラブ「なるほど、そうだよねっ。みんな、いいこと言うっ!」 心の友達・・・な少女たち「じゃあ、また会おうねっ!誘ってくれてありがとう!」 ラブ「うんっ!またみんなで集まって、幸せゲットしようね~!」 美希「みんなからもらったぬくもり、完璧に周りの人たちに届けるわ。」 祈里「ぬくもりの輪が広がっていくって、わたし信じてる。」 せつな「誰か一人でもあたたまってもらえるように、精一杯がんばるわ!」 ラ美祈せ「「「「楽しんでくれて、ありがとう。またね~!!」」」」
https://w.atwiki.jp/lls_ss/pages/1467.html
元スレURL 短めSS1ダース 概要 3グループのコミカル有りしっとり成分有りの 12の短編集 タグ ^Aqours ^[[虹ヶ咲]] ^高咲侑 ^μ’s 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1125.html
何度かリンクルンに着信があった。でもラブは出ようとはしなかった。 着信音からせつなからだと分かっているはずなのに。 しばらくすると、今度はメールが来た。そこでようやくラブはリンクルンを手に取る。 画面を見ながら動こうとしないラブ。 その表情からは心の内を窺い見るのは無理だった。 「ラブ…ちゃん…?」 おずおずと声を掛ける。 このタイミングで来たせつなからの連絡が、祈里に無関係だとは思えなかったから。 「ん、せつなからだよ…」 「…うん」 それは分かっている。 でも、内容をこちらから尋ねてみてもいいものなのか。 それが躊躇われた。 「せつな、今日は美希たんのとこに泊まるんだってさ」 美希が、誘ったんだろうか…。 祈里の心臓が僅かにきゅっと締め付けられた。 そして、そんな風に考える自分に少し狼狽えた。 「なに考えたか当ててみようか?」 「…え?」 美希ちゃん、せつなちゃんにわたしとラブちゃんの事話すのかな…? 「そう、考えた。違う?」 今度は傍目にも分かるほど、祈里の体はビクリと震え、顔は青ざめていった。 自分でもほとんど無意識の浅ましい心の動きを悟られてしまった事に対する、恐怖感にも似た気持ち。 また、軽蔑されてしまう。 震え出しそうな体を抑え、俯く。 美希とせつなに謝ろう。 そう決心した舌の根も乾かぬ内に。 反射的に保身に走ろうとしてしまう卑しい心の動き。目眩がしそうなくらい情けなかった。 「そんな死にそうな顔しなくてもいいよ」 ラブは苦笑い、と言うより自嘲するような声と口調でリンクルンをしまう。 どうやら今すぐ返信する気はないらしい。 「あたしも咄嗟にそう思っちゃったんだから…」 「ラブちゃん…」 「やんなっちゃうよね。謝ろうとか言っときながらさ」 あーあ…。 そう、溜め息をつきながらラブは祈里のベッドにごろりと転がる。 美希は秘密にするなら墓場まで持って行け、と言った。 これ以上せつなを傷付けたら許さない、とも。 それならば美希がせつなに不用意な事を言うはずがない。 それなのに、当の自分はどうだ。 電話一つに情けないくらいに狼狽えている。 メールにどんな返信をしたらいいのかすら分からない。 「ブッキー、嘘つくのって難しいね…」 「……ラブちゃん?」 「ちょっと、違うか。嘘は簡単につけちゃう。でも…嘘をつき通すのが難しいのかな」 どうして嘘をついてしまうんだろう。 どうして秘密を抱えてしまうんだろう。 苦しくなってくるのは分かってるのに。 嘘をつくのは簡単。嘘をついた事を謝るのも、そんなに難しい事じゃない。 謝ってしまえば、許してもらえるかも知れない。 もし許してもらえなくても、嘘を抱え続ける苦しさからは解放される。 でも、一度ついた嘘を貫き通すのは難しい。 そして、その嘘の存在その物を隠すのはもっと難しい。 特に、暴かれれば相手も自分も傷を負うような、後ろ暗い秘密なら尚更だ。 もし、さっきの電話に出たとしてもいつも通りに話すのは無理だと思った。 喋り方。声のトーン。会話の間。相づちのタイミング。 きっと、せつなはいつもと違う何かを感じ取ってしまう。 それが何かは分からなくても、せつなに言えない秘密がある事を。 せつななら、もし嘘の存在に気づいてもラブがそれを隠したがっているのなら、 無理に聞き出そうとはしない。 嘘の存在その物を気づかれたくないとラブが思っているのを察したのなら、 黙って茶番だと分かっていても素知らぬ顔で付き合ってくれるだろう。 そして、ラブが秘密を持て余してどうしようもなくなったら、きっとせつなは 自分の方から聞き出してくれる。 ラブを解放する為に。 たとえ、自分が苦しみ傷付く事になろうとも。 そして、それに甘えてしまうだろうラブ自身がありありと想像できた。 ベッドの上でラブは硬く身を縮め、心の中で自分を罵倒する。 自ら毒を煽ったのは自分だ。 こんなに苦しいなんて思わなかった、なんてどれだけ馬鹿げた言いぐさだろう。 苦痛に耐えかねて吐き出した所でいつまで経っても苦しさは残る。 だってその毒が産まれたのは自分の胸の中なのだから。 吐いた毒は喉を焼き、そして周りをも侵す。 それならせめて、吐き出さずに自分の内に留めておくしかないではないか。 たぶん、美希の言っていた、「秘密を墓場まで持って行く」と言うのはそう言う事なのだ。 せつなを守りたい。幸せにしたい。いつも笑顔でいて欲しい。 そして出来れば、いつもその隣にいたい。 望む事はそれだけなのに。 いつもいつも、自分の弱さが邪魔をする。 「ラブちゃんは、せつなちゃんを信じてるんだね…」 「ブッキー…?」 「いつだって、せつなちゃんはラブちゃんの笑顔を守ろうとする…」 「…?」 「ラブちゃんは、それを知ってる。だから…」 だから、ラブちゃんが苦しむ事がせつなちゃんを一番悲しませるって分かってるから… ラブちゃんは、そんなに自分を責めるんだよね。 祈里は小さな拳を握り締め、くしゃりと顔を歪める。 「ずっと、そうだったよ…。せつなちゃん、ずっと…」 「……ブッキー…?」 「わたしが、せつなちゃんを…どんなに苦しめようとしたって、メチャクチャにしようとしたって…」 「…………」 「考えてるのは、ラブちゃんの事だけ」 ああ、駄目だ。 やっぱり、無理なんだ。 たった一人の相手としてせつなに愛される。それは諦めていた。 だからせめて、ただの友達以外になりたくて。 傷つけても、憎まれても、どれくらいせつなを想っているか、それを分かって欲しくて。 でも結局、やった事は手に入らない玩具を欲しがって駄々を捏ねる子供と同じだった。 それよりもっとタチの悪い、取り返しのつかない愚かしさだった。 それなのに、まだこんな気持ちになる。 やっぱり、まだラブが羨ましい。 ラブは息をするようにせつなとの結び付きの深さを醸し出す。 決して自慢する訳でも、絆をひけらかす訳でもなく。 心の一番の特等席が埋まっている事を。 いつでも真っ先に考えるのがお互いの事なのだと。 「ごめん、ラブちゃん…分かってるよ。馬鹿な事言ってるの…」 「…ブッキー」 「こんな事しでかして、まだ諦められないとか…自分でも最低だと思うよ」 「…………」 「……ごめんなさい。ラブちゃんに言う事じゃないよね」 「ううん。いいよ」 「…ラブちゃん?」 「いいんだ。当たり前だと思うし…」 叶わないと分かっていたって、好きになった気持ちはどこかへ消えるはずはない。 謝ったって、諦めると決めたって、たとえ自分自身がどこかへ消えてしまったとしても。 きっと気持ちはどこかに残る。 諦めたって、好きなものは好き。 結ばれないと分かっていたって好きになってしまった。 相手を苦しめるだけだと知りながら、想いを抑えられなかった。 誰も幸せにはなれないのに、祈里がせつなを愛する事を止められなかった。 そして、せつなが祈里の想いに応えられないのも、せつなの所為ではないのだから。 犯した罪はどれほど悔いても償っても無くなりはしない。 しかし、人が誰かを愛する事は罪ではない。 その相手を愛せない事が罪ではないように。 諦めて想いが冷めるのなら、誰も泣かずに済むのに。 どうして、色も形も匂いも手触りも何も無い、目にも見えない心に体まで支配されてしまうんだろう。 「ねぇ、ラブちゃん。運命の赤い糸って、あるじゃない?」 「…うん…?」 「きっと、繋がってるのはラブちゃんとせつなちゃんみたいな人達なんだろうね」 産まれた世界も、育った環境も何もかも違うのに。女の子同士で、敵として出会ったのに。 どんな立場で、どんな出会い方をしても、必ず恋に落ちてお互いを求めずにはいられない。 何度生まれ変わっても、探し求めずにはいられない、たった一人の相手。 「わたしにも、繋がった人がいるのかな…」 「……どう、なんだろうね」 間の抜けた返答だ、と思いながらもラブは言葉を探しあぐねた。 少し前なら、こんな風に拗れてしまう前になら、迷いも無くこう答えられただろう。 (大丈夫だよ!ブッキーだって絶対に運命の人に会えるよ!) 祈里を励ますつもりで。 祈里にも幸せになって欲しい。 自分とせつなが出会えたように、きっと祈里にも愛し合える相手が現れる。 そう、心から信じて。 でも、今は違う。 祈里が運命の人なんて望んでいないのは分かっているから。 「赤い糸がみんなに結ばれてるのなら、どうして違う人に繋がってるって分かってる人を 好きになったりするんだろうね」 「こんなにたくさん人がいるんだもん。 きっとこんがらがったり、途中で切れたりする事もあるんじゃないかな…」 身も蓋もないラブの言い様に、祈里はクスリと笑う。 恋敵でもあり、裏切った相手でもあるラブが一番自分の気持ちを理解してくれている。 皮肉なようで、理にかなっているようで。 同じ相手を好きになってしまった者同士だからこそ、なんだろうか。 立てた膝に顔を埋めて、ラブに小指を立てて見せる。 「神様が結び忘れちゃった人も、いてもおかしくないよね」 「それは無いんじゃない?神様なんだし」 「でも、人を好きになった事が無いって人もいると思うの」 「……」 「もしそうなら、誰かを好きになれる人はラッキーなのかも」 「ラッキーなのかなぁ。辛い事も多いよね」 「うん。でもやっぱり、出会わなければ良かったとは絶対に思わないでしょ?」 「…そうだね」 どこかにいるかも知れない、祈里の運命の人。 その人に出会ったら、せつなに感じた以上の想いを持つようになるんだろうか。 その人も、自分を愛してくれるんだろうか。 もしそうなら、出会いたくない、と祈里は思った。 誰かを好きになる気持ちは止められない。それを身を持って知ってしまった。 出会えば必ず心惹かれ合い、求め合う。逆らう事の出来ない相手。 そんなのは嫌だ、と思った。 せつな以外に心を動かす自分なんて見たくない。 これ以上の想いがあるなんて受け入れたくなかった。 馬鹿馬鹿しくても、子供じみてても、単なる執着だと言われても、 せつなだけが特別なんだと思いたかった。 「ブッキーが……」 「……?」 「ブッキーが、自分にも、運命の人がいるんだって、思えるようになってくれたら…嬉しいな」 「………」 「せつなを忘れるんじゃなくて、無かった事にするんじゃなくてさ…それでも、誰かを好きになって欲しい」 「ラブちゃん、お人好し過ぎだよ…」 「違うよ。そんなんじゃないよ。分かってるでしょ?」 「………………」 「ごめんね。せつなだけは、駄目なんだ…」 祈里に幸せな恋をして欲しい。 誰かに心から愛されて、喜びを感じて欲しい。 祈里が望む事なら何でも叶えてあげたい。 自分に出来る事なら何でもするし、差し出せるものは何でも差し出す。 せつなへの想いを手放す、それ以外の事なら何でも。 それは本当。祈里が好きだから。 でも同じくらい、自分が楽になりたいから。 祈里に大切な人が出来れば、きっと心から祝福出来る。 この胸に巣食った苦しさから、開放される。 飲み込む事も吐き出す事も出来ない、苦く辛い毒の塊。 それでも祈里が幸せになってくれさえすれば、ただの過去の事に出来ると思うから。 ラブはせつなへの想いを断ち切る事なんて出来ない。 離れる事も、手を放す事も無理。 それを嫌と言うほど思い知らされたから。 自分がそうなら、きっと祈里も似たような思いを抱えている。 そんな祈里に違う幸せを探せなんて言うのは、酷なのだろう。 それでも、ラブは望まずにはいられない。 みんなが、傷をこれ以上広げずに癒していく道があるのではないかと。 そんなラブの気持ちを知ってか知らずか、膝に顔を埋めたまま、泣いているのか笑っているのか 分からない少し震えた声で祈里は囁く。 「やっぱり、お人好しだよ。ラブちゃんは。わたしには謝るなって言う癖に」 「…ごめん」 「だから、駄目だよ。ラブちゃんは謝っちゃ。わたし、知ってるから…」 「…何?」 「ラブちゃん、自分でも言ってたじゃない。わたしの事、好きって…」 「…………」 「ありがとう。嫌いにならないでくれて…。わたしも、ラブちゃんが大好き」 ラブは知っている。 ラブが何を言った所で、その言葉は祈里を切り裂く刃になる。 せつなとラブが並んでいる。 見つめ合い、肩を寄せ合い、同じ方向へ歩んでゆく。 その姿を目にする度、祈里はいつまでも胸を引き絞られる事になる。 四人でいる限りそれはずっと続くのだから。 そしてそれは、祈里自身が望んだ罰なのだから。 祈里の罪を分かっていながら、その裏切りに血を吐くような思いを味わっても、それでも… ラブは祈里の辛さに思いを馳せてしまうのだろう。 せつなの中に、たった一人しか入れない場所を独占してしまった。 祈里を蹴落としてその場所を手に入れた訳では無い。 きっと、最初から自分が収まるべき場所なんだ、とどれほど言い聞かせても 拭えない罪悪感。 そして、知りたくもなかったほんの少しの優越感。 せつなに出会うまで知らなかった、どんなにかけがえの無い親友でも分かち合えないものがあるのだと言う事。 それほど大切な相手を傷付け汚されたのに、まだ祈里も大切なままだと言う事。 せつなの側にいたい。 ラブと、祈里と親友のままでいたい。 それなら、ずっと痛みを抱えていくしかない。 「ねぇ、ブッキー。あたしも今日泊まっちゃダメ?」 「ここに…?」 「…うん」 「無理しなくてもいいよ」 「無理じゃないよ!…ダメ、かな?」 「うん、駄目」 「……どうして?」 祈里は顔を上げ、真っ直ぐにラブを見つめた。 自分からこんなにしっかりとラブに向き合うのは初めてだった。 真正面から見返してくるラブの真摯な瞳に、ぎゅっと胸が押し潰される。 もう一度、ちゃんと親友に戻りたい。その為に、側にいたい。 多分、ラブなりの決意を込めた言葉なのだろう。 でも、これだけは、はっきり言わなくてはいけないと思った。 ラブのいるべき場所はここではない、と。 「帰って。それで、せつなちゃんを『おかえり』って迎えてあげなきゃ」 「ブッキー……」 「せつなちゃんが帰るのは、ラブちゃんのところでしょう?」 ラブちゃんがいなくてどうするの。 祈里の瞳は涙に潤んでも、逸らされる事はなかった。 せつなが帰るのはラブのところ。 そう、初めてはっきりと言葉にした。 そう口に出す事でけじめを付けようと思った。 もう迷いは無い。 自分がせつなを愛している事は、ラブにもせつなにも何の関係も無い。 ただ、自分一人の想いなのだから。 その想いが幸せなものでも、辛く苦しいものでも、祈里だけが感じていればいい。 せつなはラブに愛され、ラブを愛して幸せになる。 それを近くで見ていればいいのだ。 やっと、前にせつなの言っていた言葉が胸の中にすとんと落ちて来た。 その上で、自分が幸せになれるのかはまだ分からない。 ただ一つ一つ、気付いた事をやっていこう。 こうして、もう一度自分を受け入れようとしてくれるラブに応えたい。 ずっと見返りも求めずに優しさを注いでくれた美希に、心から感謝したい。 身勝手な想いをぶつけて、身も心も傷付けながら、それでも許しと償いの機会を与えてくれたせつな。 彼女が望んでくれるのなら、全身全霊で応えなければならない。 せつなの側で、親友のまま、新たな道を見つける為に。 ラブは視線だけで頷き、立ち上がる。 「…そうだね。そうするよ」 祈里は自分とせつなを運命の赤い糸で結ばれた相手だと言ってくれた。 祈里の覚悟が決まったのなら、もう揺らぐ訳にはいかない。 せつなが帰ってくる。その場所に必ずいなければならない。 これからずっと共にある為に。 せつなだけではなく、祈里も、美希も、みんなが自分の居場所を確かめているのだから。 ラブは微笑んで、祈里の部屋を後にする。 赤い糸の先にいる、愛しい相手を手繰り寄せるために。 祈里がいつか、その小指の先に想いを馳せるようになれる日が来ることを願いながら。 続く
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/711.html
ラブ「せつな、今頃どうしてるかな」 ブッキー「会いたい……ね」 美希「もうっ、しっかりしなさい! せつななんて子、初めから居なかったのよ」 ラブ 「……面白くないよ、美希たん」 ブッキー「美希ちゃん……ちょっとは空気読んだほうがいいと思うの」 美希「な、なによ、アタシはただ――ゴメン、外しちゃったか」 スパーン! せつな「外しすぎよ、美希」 一同 「「せつな」」「せつなちゃん」 美希「どうしてスリッパ持ってるのよ」 せつな「突っ込むところはそこなの? 美希」 美希「冗談よ、どうしてここに?」 せつな「ラビリンスに帰ったのは私の中のイース。 せつなとしての私は、この街に残ることにしたの」 美希「ないない、どこぞのクイーンじゃあるまいし、出来ないから、それ!」 せつな「その時、奇跡が起こったのよ」 美希「起きないからっ!」 せつな「休みの日はこちらで過ごすことにしたのよ。 ただいま、ラブ、ブッキー」 美希「アタシはっ?」 せつな「私なんて居なかったんでしょ。フン、だ。 ――そうね、アレ言ってくれたら許してあげるわ」 美希「せつな、あなたは一人じゃない、一人にはならない。アタシたちがついているから……」 せつな「微妙にやる気ないわね、まあ、いいわ。ただいま、美希。 美希が一人の時、私が居ないって泣いてたの見たから帰ってきたのよ」 美希「ちょっ、プライベート覗くなんて卑怯よ」 せつな「あてずっぽうよ、本当だったのね。ありがとう、美希」 美希「これからも弄られるわけね――アタシって一体……」 ラブ「まあ、ともかく、幸せゲットだよ」
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/194.html
四つ葉になるとき ~第2章:響け!希望のリズム~ Episode9:四つ葉町、15時16分発 四色に塗り分けられた、四つ葉のクローバーの留め金。 それを外してパカリと蓋を開け、ゆっくりとハンドルを回す。 中央のクリスタルが柔らかな光を放ち、四つのハートがくるくると動き始める。 そして滑るように紡ぎ出される、軽やかで優しい旋律。 「いい音色だよねぇ。曲も素敵だし。」 ラブが後ろから覗き込んで、嬉しそうに言う。 「あ・・・う、うん。」 少し恥ずかしくなって、ラブの顔を見ずに頷いた。 こうやってこの音色に聴き入るのは、今日だけでもう何度目だろう――そう思ったから。 私にとって「音」というものは、耳で捉えることのできる、単なる情報でしかなかった。 言葉としての情報。状況を把握するための情報。危険を察知するための情報。 音を聴くために、音を聞くなんて――音の響きや連なりを、ただ楽しむなんて、 そんなこと、この世界に来て初めて知った。 もっとも、私が最初に知った音楽はダンスの曲だったから、 はじめはメロディよりも、リズムやテンポばかりを気にして聴いていたような気がする。 初めてクローバーボックスの音色を聞いた、あのときの不思議な気持ち。 豊かで澄み切った音は、まるで耳なんか通さずに、 直接心に流れ込んでくるみたいだった。 音は私の中で奏でられ、あたたかく語りかけるようにメロディを紡ぐ。 それに答えて、何だか私の心も一緒に歌っているような、そんな気がした。 「音楽って、音を楽しむものだからさ。 きれいな音楽を聴くと、一緒に歌っちゃうものなんだよ。」 あのときの気持ちを伝えたくて、下手な説明をした私に、ラブが言った。 もしそうなら、私の心も――音楽なんて、まるで知らなかった私の心も、 このオルゴールの曲に乗せて、歌うことが出来るんだろうか。 休み時間の教室の楽しい雰囲気や、晩ご飯の食卓の明るさや、 今、私の隣りにある、笑顔のあたたかさを。 ふわりとやって来たシフォンが、オルゴールの曲に合わせるように、 いつもより優しい声で、キュアキュア~と囁く。 クローバーボックスと、シフォンと、私の心。 何だか三つの心が、歌で楽しく語り合っているように思えて、 私はハンドルを回しながら、知らず知らずのうちに、微笑んでいた。 四つ葉になるとき ~第2章:響け!希望のリズム~ Episode9:四つ葉町、15時16分発 「せつな~、お待たせ。」 クローバータウンストリートの、天使の像の前。五日前と同じ場所に、同じように立っている彼女に、美希は駆け寄る。 「私も、今来たとこ。」 そう言って、少しはにかんだように笑うせつなに、美希もニコリと微笑んだ。 この前と違っているのは、二人とも制服姿だということと、時間が既に午後三時過ぎだということ、それに、二人のこの表情だ。 あのとき結局買えなかった美希の服を買うために、美希とせつなは、今度は最初から二人きりで、学校帰りに待ち合わせたのだった。 商店街を歩く二人の足取りも、今日は軽やかだ。そしてこの前よりも時間が無いだけに、歩調が速い。 「少し急げば、四時にはお店に着けるかしら。」 「この時間なら電車の本数も多いし、大丈夫よ。」 そう言って、美希はちらりと隣を見て、内心あれ?と首をかしげた。何だかいつもより、ヤケにせつなの背が高いような気がしたからだ。 せつな、今日は学校の革靴よね・・・不思議に思って、そっと足元に目をやる。途端に驚きの表情で顔を上げた美希は、せつなの頭の向こうに何があるかに気付いて、今度は思わず、ぷっと吹き出した。 百面相さながらのその表情に、気付いているのかいないのか、せつなは澄まして前を向いたままだ。 美希は、そんなせつなを見つめてニヤリと笑うと、さっと彼女の後ろにまわって、その両肩を上から、くいっと押さえ付けた。 「な・・・なに?」 「そ~んな爪先立ちで歩いてたら、足痛めるわよ?身長だけは、アタシと張り合おうったって、ム・リ・ム・リ。」 「そんなこと・・・。」 せつなが少し悔しそうに、口を尖らせる。が、肩越しに囁いた美希の言葉に、見る見るその顔が赤くなった。 「ありがとう。もう大丈夫よ、魚屋さんの前は通り過ぎたから。」 この前二人でここを通ったとき、店先の水槽の中にアレを見つけて、思わず、ひっ!と声を上げてしまったことを思い出す。せつなはそれを覚えていて、美希の視界に水槽が入らないように、盾になってくれたのだろう。 それも、身長が足りない分を精一杯背伸びして、爪先歩きでカバーするという、単純だけど誰にも真似の出来ない方法で。 やり方は強引だけど、それがいかにもせつならしい・・・そう思って、美希はしみじみと嬉しくなる。 美希の手の下にある肩の高さが、ガクンと下がった。靴の踵をそっと地面につけたせつなが、はぁっと溜息をついて、美希を振り向く。その何とも照れ臭そうな表情に、もう一度ニヤリと笑みを返して、美希はせつなの手を取った。 「急ごう。せつな、走れる?足が痛いなんて、言わないわよね。」 「当然でしょ!」 クスリと笑い合って、駅を目指して走り出す。少し秋めいてきた風が、手を繋いで走る二人の髪を、柔らかく揺らした。 まだラッシュアワーには間があるが、平日の午後だけあって、電車はそこそこに混んでいた。二人並んで、つり革につかまる。 目の前の座席には、大学生らしき若者が座っていて、イヤフォンで音楽を聴きながら、雑誌のページをめくっている。それをちらりと眺めてから、美希はせつなの耳元に口を寄せた。 「せつなにあんなに心配されるんじゃあ、アタシもそろそろ、克服しなきゃダメかしら。」 「何を?」 こちらを見上げて問い返すせつなに、一瞬グッと詰まってから、美希はさらに声をひそめる。 「もうっ!わざわざ言わせなくてもいいでしょう?」 「名前も口に出せないものを、克服なんて無理ね。」 クスクスと笑ってから、せつなは少し真顔になった。 「ねぇ、美希。怖いものって、やっぱり克服しなきゃいけないのかしら。」 「そりゃあ、モノにも拠ると思うけど・・・。」 せつなが告白した“一番怖いもの”を思い出して、美希は口ごもる。 「ごめんなさい、おかしなことを言って。怖いものは、有るよりは無い方がいいわよね。でも・・・。」 せつなは美希の顔から目を逸らし、少し言いづらそうに言葉を続けた。 「私、美希にも怖いものがあるって知って、ちょっと嬉しかったの。それを美希が教えてくれたのが、もっと嬉しかった。」 そう言って、せつなの顔が下を向く。 「そんな風に思うのって、やっぱり私・・・意地が悪いのかしら。」 「ちょっ、それは・・・」 美希が口を開きかけたとき、電車がホームに滑り込んだ。大学生の隣の席に座っていた、サラリーマンらしい二人連れが席を立つ。 「・・・座ろっか。」 美希が気を取り直したように、せつなを促す。そして、二人並んで座席に腰掛けると、さっきよりも一層近くなった横顔に向かって、おどけた調子で囁いた。 「もしそうなら、アタシもせつなに負けないくらい、意地が悪いってことになるわね。」 「え・・・?」 驚いたようにこちらを向くせつなに、美希はパチリと片目をつぶる。 「それに、ホントに意地が悪い相手に、アタシが弱みを見せるわけないでしょう?だってアタシ、完璧だもの。」 「美希ったら。」 せつなが少しうるんだ目でそう言ったと同時に、電車がガタンと大きく揺れて発車する。美希は思い切りバランスを崩して、せつなの肩にもたれかかった。 「ゴメン。完璧・・・じゃないわね。」 「クスッ。ううん、頼りにしてもらえて、嬉しいわ。」 せつなが珍しく、ニヤリといたずらっぽく笑う。そして、わずかに揺らいだ上体を元に戻すと、反対隣の席に向かって律儀に会釈した。そのとき、隣の彼が読んでいる雑誌が目に入って、せつなは、あ・・・と小さく声を上げた。 「ねぇ、美希。今までに、楽器の演奏を習ったことって、ある?」 「え?楽器?うーん、学校の音楽の授業で、リコーダーを吹いたくらいかな。ラブもブッキーも、そう変わらないと思うけど。それがどうかしたの?」 せつなの唐突とも言える問いに答えながら、美希はせつなの隣で広げられている、雑誌のページにちらりと目をやる。なるほど、どうやら音楽雑誌らしい。誌面を大きく飾っているのは、最近ニューヨークで話題になっているジャズピアニストが演奏している写真だ。 せつなは少し考えてから、おずおずと口を開く。 「お店に着く間に、少し聞いてほしいことがあるんだけど・・・いいかしら。」 そう言って、少し上目遣いに自分を見つめるせつなに、美希はここぞとばかりに、ニコリと完璧な笑顔を見せた。 「もっちろん、いいわよ。何でも言って。」 途端に身体ごとせつなに向き直られて、ほんの少したじろぐ。せつなはそんな美希にはお構いなしに、考え考え、ゆっくりと話し始めた。 「あのね。昨日の放課後のことなんだけど・・・」 ☆ 昨日――この日はせつなにとって、初めての日直の日だった。 四つ葉中学校では、日直は二人一組で担当する。授業が終わるたびに黒板を消したり、移動教室のときに窓とドアを閉めて電気を消したり、ひとつひとつは取るに足りないことだが、細かい仕事が朝から放課後まで続く当番。そもそも、「日直」という言葉を初めて聞いたせつなには、戸惑うこともさぞかし多いだろうと思いきや・・・。 「せつなっ!日直のことなら、どーんと任せて!まずねー、朝、先生が入って来たら、『起立!』って号令かけて・・・」 「違うわよ、ラブ。その前に、職員室に学級日誌を取りに行くんでしょう?東さん、わからないことがあったら、ラブじゃなくてわたしに、何でも訊いて。」 「東さん!チョークの粉で指が汚れないように、黒板消しは、僕が責任を持って掃除しておきますから!」 「いーえ、東さん。何だったら、明日は板書は無しってことで、僕が先生に掛け合いましょう!」 「・・・お前ら、いい加減にしろよ。東さんと日直をやるのは、俺だぞ!」 「それが一番、許せないんだぁぁぁ!!」 既に前日の時点で、ラブを筆頭に、次から次へとせつなの世話を焼きたがる級友たちが現れて、一緒に日直をやる男子生徒もたじたじ、というありさま。お陰で当日は、さして大変でもない日直の仕事よりも、そんな周囲の反応の方に大いに戸惑いを覚えつつ、せつなの初めての日直の日は、何だかワイワイと過ぎて行った。 そして、日直の最後の仕事である学級日誌を書き終えて、職員室へ届けに行った、その後のこと。 教室に鞄を取りに戻ったせつなは、人がまばらになった廊下を流れてくる音に気付いて、足を止めた。コロコロと軽快に転がるような、澄んだ音色。音楽の授業で、何度か聞いたことのある音だ。 (あれはピアノの音ね。きれい・・・。誰が弾いているのかしら。) 一緒に日誌を届けに行った日直の相棒と教室の前で別れ、音を頼りに歩き出す。辿り着いた先は予想通り、音楽室だった。半開きのドアの陰からそっと窺うと、ピアノの向こうに見える真剣な表情。弾いていたのは、せつなのクラスメイトの由美だった。ラブと仲良しで、まだ学校に慣れていないせつなを、いつもさりげなくフォローしてくれる子だ。 漆黒の髪を柔らかく揺らして曲のリズムを取りながら、右手ではゆったりと流れるようなメロディを、左手では軽快で正確無比な和音を奏でる。演奏のテクニックについてはわからないせつなにも、その両手から紡ぎ出される音の豊かさは、その耳で確かに感じることができた。 やがて曲が終わり、由美が楽譜から目を上げる。そして、ドアの陰のせつなに気付くと、嬉しそうな、困っているような、何とも複雑な表情になった。 せつなの方も、照れ笑いの表情で音楽室に入り、由美に近付く。 「ごめんなさい。教室の前でピアノが聞こえて、あんまりきれいだったから。」 「あ、ありがとう、東さん。教室まで聞こえてたんだ・・・。ドアが開いていたもんね。」 由美が赤い顔をして、ドギマギと言った。 「今度、地域の音楽祭で、合唱部が歌うことになっていてね。その伴奏を頼まれたの。いつもピアノを弾いていた子が、お父さんの転勤で、急に転校しちゃったものだから。」 「そうだったの。こんな素敵な伴奏なら、きっと合唱もうまくいくわね。」 せつながそう言って、ニコリと笑う。が、当の由美は、それを聞いて視線を泳がせると、ピアノの鍵盤に目を落とした。 「うまく・・・いかないの。わたし、どうしてもみんなの足を引っ張っちゃって。」 「どして?あんなにきれいに演奏してたじゃない。」 驚いて目を見張るせつなに、由美は顔を上げて、真剣な眼差しを向けた。 「東さん、お願い。今度は、そこで最初から聴いていてくれる?」 せつなが頷くと、由美はおもむろに手拍子を始めた。 「このテンポで、手拍子をしながら聴いてほしいんだけど。」 「わかったわ。このテンポね?」 せつなが由美と入れ替わりに手拍子を始める。由美は目を閉じて、その音に耳を澄ませてから、静かに鍵盤に指を乗せた。 由美の右手が流れるようなメロディを奏で、左手の指が三つの鍵盤で和音を作りだす。 曲が始まると、せつなの手拍子が、自然と四拍子になった。身体の動きを音楽の流れに合わせる――ダンスレッスンで、いつもやっていることだ。 (でも、何だかさっきとは違う。何だろう。) 手拍子をしながら、せつなは目をつぶって、じっと音に神経を集中する。 (さっきよりも、音が――硬い?) パッと目を開いて、ピアノの前の由美を見た。その顔は、さっきよりさらに真剣そのものに見えたが、メロディに乗っているような表情ではない。リズムを取っていた黒髪も、今は指の動きを見張っているように、左右に動いているだけだ。 やがて、曲がガラリと雰囲気を変え、左手がトリルの連打となる。その部分で、由美のテンポがせつなの手拍子と明らかにずれ、修正しようとした途端、音が飛んだ。 由美の表情が、さらに険しいものとなる。何とか止まらずに最後まで演奏できたものの、そこからの音はさらに硬く、メロディもリズミカルではなくなっていた。 「ごめんなさい、東さん。わたし、歌が入るとどうしても緊張してしまって・・・。だから合唱部のみんなとも、別々に練習してるの。手拍子だけなら、何とかなるかと思ったんだけどな。」 由美が、力なく肩を落とす。 「本番は一回きりだから、もしも大きな失敗でもしたら、って考えたら怖くって・・・。もう、あと十日しか無いのに。」 独り言のように呟く由美に、せつなは何も言えず、ただ、楽譜と鍵盤とを、じっと見つめるだけだった――。 ☆ 「それで?せつなは、どうしたいの?」 美希が、話を終えたせつなの顔を覗き込む。 「由美の役に立てることがあるなら、役に立ちたいんだけど・・・。」 せつなはそう言って、膝に置かれた自分の手を見つめた。 失敗が許されない状況――それは、せつなにとっては嫌と言うほど経験がある状況だ。そして、そういう時にこそ平常心が大切だということも、身に沁みて知っている。 平常心を保つためには、毎日の訓練を地道に積み上げて、常に平常心で居られるだけの自信を付けるしかない。逆に言えば、毎日の訓練を通して自分の力を正確に把握し、あらゆる事態を想定して対策が立てられれば、緊張して動けなくなるようなことはない――それが、せつなが経験から導き出した結論だった。 「そこまで判っているなら、その子にそう言ってあげればいいじゃない。勿論、練習は必死でやっているんだろうけど、こういうことって精神的な部分が大きいもの。誰かにアドバイスしてもらえれば、違ってくると思うよ?」 「でも・・・。」 美希の言葉に、せつなはちらりと顔を上げ、また膝の上に視線を落とす。 「私がそう思うようになったのは、ピアノや合唱とは程遠い経験を通してだもの。そんな経験と、同じに考えて良いワケが・・・」 「何言ってるの。同じよ。」 確信に満ちた力強い声が、せつなの顔を上げさせる。そこには、あのときウエスターに真っ向から啖呵を切ったときと同じ、強い光を湛えた美希の眼差しがあった。 「せつなの話を聞いて、モデルの仕事も同じだなって思ったもの。人前に立つのって、やっぱり怖いのよ?だから、毎日の努力の積み重ねが大事なの。そうでなければ、とてもじゃないけどモデルなんてやれないわ。」 小声ながらもきっぱりとそう言い切ってから、美希はせつなの目を見つめて、ゆっくりと、優しい声で言った。 「どんな経験にもさ。いろんなことに通じる大切なモノって、何かしらあるのよ、きっと。ううん、辛かったり寂しかったりした経験からこそ、そういうモノを掴んでやらなくちゃ。だってその時間も、アタシたちの大事な人生なんだもん。」 あっけにとられたように蒼い瞳を見つめていたせつなが、ゆっくりと、口元に小さな笑みを浮かべる。それを確かめてから、美希は内緒話でもするように、せつなの耳に顔を近付けた。 「もうひとつ、人前で緊張しない、とっておきの方法があるわ。そこに居る人たち全員が、自分のファンだ、って想像すればいいのよ。」 「ファン?」 不思議そうに小首を傾げるせつなに、美希は必死で言葉を探す。 「えーっと・・・みんながみんな、自分のことを大好きな人たちだって、想像するの。合唱部の仲間たちも、顧問の先生も、見に来てくれたお客さんも、み~んな、ね。大好きだって思ってくれる人たちの前なら怖くないし、一緒に音楽を楽しもうって思えるでしょう?」 せつながハッとしたように、美希の顔を見つめた。 「・・・そうね。音楽って、まずは楽しむものよね。ありがとう。大事なことを、忘れるところだった。」 美希はニコリと笑ってから、チロリと小さく舌を出す。 「まぁ、ホントのこと言うと、今のはママの受け売りなんだけどね。」 「さすが、元アイドルね。でも・・・。」 感心したように頷いてから、せつなは困った顔になった。 「由美に、そんなこと出来るかしら。彼女って、美希ほど完璧に図々しくは無いような気がするんだけど。」 「完璧に図々しいって・・・こら、せつな!」 美希が、小さく拳を振り上げる。そのとき、電車がスピードを落とし、車内アナウンスが高々と、二人が降りる駅の名前を読み上げた。 「あっ、着いた・・・。危ない危ない、アナウンスを聞き逃してたら、乗り過ごすところだったわね。」 美希が慌てた様子で席を立つ。せつなも急いでそれに続きながら、何だか不思議な気がしていた。 五日前にも同じ駅まで電車に乗ったはずなのに、今日はあのときよりずいぶん早く、到着したような気がしたから。 ☆ その翌週の日曜日。 「おはよう、美希。」 四つ葉町公園のドーナツカフェを訪れていた美希は、後ろから駆け寄って来る人影に、笑顔で手を上げた。 「おはよう、せつな。ドーナツ買いに来たの?」 「そう。由美と合唱部のみんなに、差し入れしようと思って。」 そう言って、せつなは嬉しそうに美希の姿を眺める。 「その服、今日も着てくれているのね。」 「ええ。今日は面会日なの。やっぱりパパにも、娘の新たな魅力を、発見させてあげなくっちゃね。」 美希が着ているのは、大きなチェック柄の赤いワンピースに、白いサマーニットのボレロ。この前一緒に出かけたとき、せつなが選んだ服だ。澄ましてポーズを決める美希に、せつなも笑顔になる。 面会日。それは、隣町に暮らす父と弟に、美希が会いに行く日だった。甘い物が好きだというお父さんに、いつものようにお土産のドーナツを買いに来たんだな、とせつなは納得する。 「差し入れって・・・そっか、今日は音楽祭の本番だっけ。」 美希がふと気付いたように、せつなに尋ねた。 「そうなの。ラブも一緒に行くんだけど、ラブったら、なかなか起きないもんだから・・・。今頃、きっと大慌てで支度してるわ。」 穏やかに微笑むせつなの表情が、その後の練習の充実ぶりを物語っている。 実際、あれからせつなは、ダンスレッスンの無い日には、由美と合唱部のメンバーと過ごすことが多かった。と言っても、せつな自身は音楽室の隅に座って、練習を見ているだけだったのだが、せつなが見に来ているというだけで、ヤケに張り切って練習する連中が居たことも、確かだ。 ワゴンの中でドーナツを袋に詰めていたカオルちゃんが、せつなの顔を見て、ニヤリと笑った。 「メロンドーナツの次は、マロンドーナツだよ~ん。メロンとマロン、名前だけは似てるよねっ。味は全然違うけど~。グハッ!」 二人でドーナツの袋を抱えて駅に向かう。二つの袋を何気なく眺めたせつなは、二重に折り返された袋の口が、どちらも左側の角だけ三角に折られているのを見て、小さく微笑んだ。 カオルちゃんの宿題――最悪にばかり目が行くのが『心配』なら、最高の最高にまで目が行ってしまうものは何か――。その答えが、あれから少しずつ形となって、せつなの心の中にある。 幼い姿のラブに、ラブという名前に託した想いを語って、元の世界へ送り返してくれた、源吉おじいさん。 自分のせいで割れてしまった宝石の欠片を磨いて、国政に携わる人々に渡したい――ジェフリーの祈りとも言える提案を受け入れた、めくるめく王国一家。 千香ちゃんが元気になるようにと願いを込めて、懸命にアサガオを育てた女の子。 そして、仲間が居なくなることが怖いと告白した自分に、一人ぼっちにはならないと、力強く励ましてくれた美希。 相手の最高の姿を思い描いて、そうなって欲しいと願うとき、人は「頑張れ」と呼びかける。励ましの声を、応援の気持ちを、相手に精一杯届けようとする。その『応援』を受け取ったとき、最高を示す「右の角」は、さらに高いところへ、明るい方へ、進んでいけるものなのかもしれない。今、そうせつなは思う。 勿論、正解はひとつではないのだろう。人間はひとりひとり、皆違うのだから。 でも、誰かを笑顔に出来る方法のひとつは、ここにあるような気がしていた。 そしてもしかしたら、自分も誰かに応援の気持ちを伝えて、最高の姿を見ることが出来るのかもしれないと、せつなはそっと、由美の笑顔を思い浮かべた。 「じゃあね。その、由美っていう子の晴れ姿、せつなのお陰で緊張を克服した姿を、ちゃあんと見て来て。」 美希が楽しそうにそう言って、せつなに小さく手を振る。今日は、二人の行き先が反対方向なのだ。 「ありがとう。美希も、何か克服したいものがあったら、何でも手伝うわ。」 真面目とも冗談ともつかない様子で、まっすぐに見つめてくるせつなに、美希はゴクリと唾を飲む。それを見て、せつなが堪え切れずにクスクスと笑い出したとき、改札口の方から、明るい声が響いて来た。 満面の笑みを浮かべたラブが、息せき切って走って来る。 「せーつなっ、お待たせ!はぁ、やっと追いついたぁ。あれ?美希たん!今日はお出かけ?」 そこでラブは、美希とせつなを交互に眺めると、途端にキラキラと瞳を輝かせた。 「わっはー!今日の美希たんとせつな、何だか見た目までそっくりだよぉ。な~んか凄~く、仲良しって感じ!」 言われて二人は、慌てて互いの姿を見比べる。 無地とチェックの違いがあるとは言え、二人とも赤いワンピースに白いボレロという出で立ち。おまけに揃ってドーナツの袋を抱えている姿は、確かに見た目まで、実に近しい雰囲気で・・・。 「な・・・何言ってるのよっ!!」 美希とせつなの声が、ぴったりと揃う。もしも声に色があるのなら、二人の声は、それぞれの服の色と同じのはずだ。 「ほら、ラブ、急ぐわよ。早くしないと音楽祭が始まっちゃうわ!」 せつなが美希に照れ臭そうに微笑んでから、いきなりラブの手を引っ張って、階段を駆け上がる。 「わ、わ、わ・・・。み、美希たん、またね!」 ラブはせつなに引きずられるようにして、それでも何とか、美希に手を振ってみせた。 「まったく。しょうがないなぁ、もう。」 美希がやっと、いつもの調子を取り戻す。そして、二人の親友の後ろ姿を見送ると、反対側のホームへの階段を、ゆっくりと、優雅な足取りで上がって行った。 ~終~ ~第3章:癒せ!祈りのハーモニー~ Episode10:宴のあとにへ続く
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/330.html
ラブ「えっと、借りてくる物は…」 せつな「あら?ラブがこっちに走ってくるわ」 由美「借り物を持ってる人がこっちにいるのかも」 ラブ「せつな!一緒に来て!」 せつな「え?私?」 ラブ「早く早く!一着逃しちゃうよー!」 ラブ「やったー!一着ゲットだよ!」 せつな「おめでとう、ラブ。そういえば借り物って何だったの?」 ラブ「え!?えーとね…せ、成績優秀で運動神経抜群な女の子!」 せつな「もう、私はそんなに凄くないわよ?でも、私を選んでくれてありがとう」 ラブ(う~、それ嘘なの…素直になれなくてごめんね。あたしの『大切な人』) しかし、ちゃんと借り物を持ってきたかどうかのチェックでバレてしまうのでした。 はぁ~スイーツスイーツ♪ 5-476も是非どうぞ!